大学1年生の夏休みは、免許を取得し購入したばかりの中古のオートバイ "KAWASAKI ZZ-R400" で里帰りしていた。
生まれ育った鳥取県、バイクで行きたい場所はたくさんあったが、なかでも米子から鳥取にかけての国道9号線は有力候補だった。何といっても青色がきれいな海岸線。夏の日本海と空を左手に見ながら潮風を感じながらのツーリングは気持ちいいに決まっている。
そして目的地は浦富海岸。ここには確か3度行ったことがある。1度目は中学2年の時海水浴に連れて行ってもらった。2度目は高校1年の時に友人と自転車で蒜山高原経由で行き、浦富海岸にテントを張って一晩過ごしたことがある。3度目は高校3年の総体が布勢陸上競技場であり、泊まったのが浦富海岸にある民宿だった気がする。朝起きて海岸を散歩したのだけど、あれは確か浦富海岸だったはず。
そんな思い出の浦富海岸まで海の道を走り、「きっと海岸沿いにあるであろう喫茶店でアイスコーヒーを飲んで帰る」という計画で出発した。
日焼け止めなんて言葉を知らないの頃なので、Tシャツとジーンズというラフな格好。フルフェイスのヘルメットを被りシートにまたがる。強い日差しでシートは熱くなっていて、じんわりとお尻からその熱が伝わってくるけど、これも夏の暑さで気持ちいい。
手袋を嵌めてスターターボタンでエンジンを掛け、左手でクラッチを切り左足で1速に入れ、右手でアクセルを回しながら滑るように走り出す。すぐに2速に切り替え加速する。そして3速へつなぎ気持ちいいスピードへ。この流れはすごく好きだ。風を切って速く走る感覚は最高で、ずっと走っていたくなる。車とは違う気持ち良さ、体で風を感じる分、自由度が増す気がする。
市街地を抜けると減速することも少なくなり、一定の速度で走れるようになる。東伯郡の辺りからは海岸沿いの道が長くなり、高低差もあるので遠くの水平線を眺めながらの快適なツーリングを楽しむことができる。
途中の展望台で休憩しながら約3時間で浦富海岸に到着。さらに海岸沿いの道路を少し走ると期待通りの、海の近くにありそうなイメージ通りの喫茶店があった。駐車場にバイクを停めて中に入ると窓際の席が空いていたのでそこに座りアイスコーヒーを注文する。
しばらくすると六角形で背が高く、底に近づくほど細くなっているグラスに入ったアイスコーヒーが運ばれてきた。そして目の前に広がる真昼の眩しい日本海とその上空を高く流れる入道雲を眺めながら、ガムシロップを入れかき混ぜて飲んでみた。直射日光と風に当たり続けて疲労した体には、冷たくて甘いアイスコーヒーは最高。窓からの景色も最高。もう今日は完璧だ。
それからはしばらくの間、自宅でアイスコーヒーを飲むときは、あの喫茶店で出てきたグラスに似た形のグラスで飲んでいた。
それから5年後、車を購入する際にバイクを手放して以来乗っていない。でもいつかはまた乗ることがあるだろう。その時はまた、浦富海岸の海岸沿いにあるであろうカフェを目指してバイクを走らせよう。そしてどんな景色を楽しみながら、どんなグラスでどんな味のアイスコーヒーを飲むことができるのだろうか。いつ実現できるかわからない楽しみにわくわくするのも悪くない。
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