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予備校近くのコーヒーショップ

珈琲物語

高校を卒業して上京し予備校生になった。


上京して驚いたのが、東京では珈琲が200円で飲むことができるということ。それまでは喫茶店で360円くらいのイメージだったので、高校生だった自分にはお店に入って珈琲を飲むということはあこがれであり、なかなかそういう機会はなかった。しかし東京にはドトールというコーヒーショップがあり200円というお手頃価格で美味しい珈琲を飲むことができる。しかもドトールはあちこちにある。僕はもう嬉しかった。東京で行きつけの店ができたということ。街に馴染んだ気がした。


通っていた学校は駿台予備校の新宿校。今はもうなくなっているが、新宿駅から山手線外回りでひと駅の新大久保駅を降り、西に向かって400mくらいのところにあった。そしてその予備校の近くにもコーヒーショップがあった。今ではカフェというのだけど、その頃はカフェというのはケーキがセットのような印象があって、珈琲を飲むだけなのは喫茶店とか珈琲屋、コーヒーショップと呼んでいた。そのコーヒーショップはドトールではなく個人経営の店だけど珈琲が200円だった。


店内はオレンジ色が配色してあって温かみのある店。入った正面にカウンター席があり、右横長に奥行きがある。壁に沿って二人用のテーブル席が5つほど。北側に大きいガラス張りの窓があって、陽は入らないのだけど大通りに面しているから外の明るさがゆるく入ってくる感じでとても落ち着けた。いつもカウンター席に腰かけて、窓の外の店内とは違う時間の流れを眺めるのが好きだった。


何度か通うとマスターに顔を覚えられたようで、同じ「いらっしゃい」の言葉にも親しみを感じたりしていた。「学生さん?」「はい、そうです。」くらいの会話はしたような気がするが、当時の僕はお店の人と会話を楽しむような社交性は全く持ち合わせておらず、せいぜい「こんにちは。」「ごちそうさま。」くらいが精一杯だったと思う。だけど予備校生という一年限定の猶予期間をもらった受験生、ほっと息をつく時間はとても大切だったし、なによりあそこに行くと落ち着ける、休憩できるというオアシスのようなお店を持てたことは幸せだった。


あの辺り、今では韓流の街になっている。大学生になってからは行っていないし、最後に行ったのがいつだったかも覚えていない。店の名前も思い出せない。だけど僕にとっては大学生になる前の一年間、安心して予備校時代を過ごさせてくれた街であり、たいして愛想のない僕にもちょっとぎこちない笑顔で迎えてくれたマスターがいる、優しい街だ。


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