朝窓の外を見ると今日も雨。また雨かー、思わずこぼれる。歩くのもためらわれるけど、そうはいかない。精算するとき「歩き遍路さんにお渡ししているんです。」とおにぎり弁当をお接待していただいた。ちょっと荷物は重くなるけど、気分が軽くなります。
レインコートを着て歩き出す。昨日の疲れか足が重い。雨、晴れ、雨そして晴れ。
道の駅宍喰温泉の向かいの海にはサーファーが大勢いた。海の中に頭がいっぱい見える。ここでバイクに乗って四国を1周している若い男性に会って話をした。僕も車を買うまではバイクに乗っていた。バイクに乗って風を切る感覚は最高。自由になれる気がしていた。いつかまた乗りたい。
水床トンネルを抜けると高知県。修行の道場が始まる。徳島県は発心の道場とは言うものの、焼山寺への山道はその後どんな山を登っても峠を越えても、へんろころがし度№1だった。ずっと自信と励みになった。平坦な道も険しい道もある。この先の長い遍路旅への覚悟ができたと思う。発心の道場は決心の道場。歩くことに対して真剣になる。
自販機センターを見つけ、そこでいただいた弁当を食べる。ご飯が少し固いけど全く問題ない。早い昼食になったけど、やっぱりおいしい。
歩き出し民家がなくなる頃、また雨が降り出した。
この先は海岸沿いの道。片側海、片側山壁がずっと続く。海は荒くまるで冬の日本海。波が“ドドーン!”と打ち付ける。空は厚い雲に覆われ、海も空も灰色。道路と山は黒。そして雨と波しぶきで、海、道路、山と白く霞んでいく。
あのカーブを越えると休憩できる所があるかな、と思いながら行くと、ずっと向こうまで同じような景色が現れる。民家も自販機も休憩所もない寂しい道、国道55号は長かった。でも孤独感は感じなかった。歩くことだけで精一杯だった。
3時半頃やっと晴れ間が出てきて、雲の切れ間に青空が見えた。あっ、空だー、と思わず足を止めて見上げた。雲の上って高い空なんだよなー、と新鮮に感じた。少し先のラーメン屋の前に乾いた大きい石が転がっていたので休憩。やっと座れた。ここで宿を決める。
とりあえず雨は上がった。でもこれからがまた長かった。喜佐浜にある酒屋でローヤルゼリーのドリンクを買い、表の駐車場で飲んで休憩。小さい集落に入ったので宿の場所を聞くと、「まっすぐだよ。」と教えてくれる。確かに道は1本しかない。民家がなくなりそうになった所にガソリンスタンドがあったので尋ねると「もうすぐだよ。」と教えてくれた。でもいよいよ民家がなくなり、何もない道になる。不安になりながらしばらく行くと、再び民家がポツポツ見えてきた。民宿ロッジ尾崎に着いたときはマジでほっとした。
民宿と言えばおばあちゃん、という根拠のない先入観があって、出迎えてくれた女性が若くきれいな人だったのには、一瞬目を疑った。接客の仕方もとても丁寧、そんなに丁寧にしなくていいですよと思うくらい。そして何よりうれしかったのは、最初に杖を洗ってくれたこと。宿の人が洗ってくれたのは初めてだった。そうあることじゃない。お風呂も「狭いですけど。」と言われたけど、広くてきれいだし、その上洗濯までしていただいた。
それと食堂を通り部屋に案内される時、厨房で調理をしている男性の姿が見えた。料理を作っている姿はなかなか見る機会がない。あ、この人が今夜泊まる遍路の為に食事を作ってくれているんだと思い、ありがたい気持ちになった。
ここにはもう1人客がいて一緒に夕食を食べた。中年の男性、米原さん。兵庫県から来ていて、区切り打ちで今回は28番まで打つ予定。よく話す人だった。
もう今日はクタクタ、長かった。明日は3日ぶりの札打ち。
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