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執筆者の写真四国ルート88

9月24日 7日目 約30㎞

今日も雨。夕方まで降り続いた。

23番薬王寺で100回以上回っているという人に会う。すごいとは思うけど、でもどうして回り続けるのだろう。よほど成就出来ないことがあるのか修行し続けているのか、日常の生活に戻れなくなったのか。詳しくは聞かなかったけど。

ここで田中さんとお別れ。おかげで35㎞歩けるようになりました。定年前にストレスや体の不調で会社を辞めここへ来たと言われていた。木が好きで自分で家を建てるなんてことも。

 

1人になったらすぐ脇から野良犬が出てきた。一緒に歩いてくれるのかと思ったら、僕の周りを前に出たり後ろにさがったりしながら、本当に30㎞先の宿の前までついて来てくれた。それからこの犬、車が脇を水しぶきあげたりスピードを落とさずに通り過ぎて行くと、その車に向かって数歩突進し、威嚇したり吠えたりする。『気ィつけろー!コラァ!』みたいに。犬が怒ってくれるので、僕の方はだんだんと平常心で歩けるようになった。

 

アップダウンを繰り返す国道を進む。激しい雨のせいで、道路は川のようになっている。流れる速度も速い。休める場所を探していると、登りの途中で国道の下に入り込める通用路があった。やっと荷物を下ろせる。ここにも雨が流れ込んでいて地面の半分くらいは濡れていた。レインコートを脱ぐと途端に体が軽くなった。

歩き出してしばらくすると、道路が片側通行になっていて、若い警備員の人に「こっち歩いてください。」と閉鎖している方を歩かせてもらう。車と距離ができて随分と楽になった。疲れている時のこういう心遣いは一段とありがたい。

 

工事現場を通り過ぎ引き続きアップダウンを繰り返すと、道路脇にお地蔵さんのお堂があった。コンクリートで囲まれた簡単なものだけど、身長くらいの高さがあるので中に入れた。地面は砂と埃で汚れていたけど、肩が痛くてたまらなかったので荷物を下ろして休む。

 

雨はなかなか弱くならず、どんどん疲労が溜まっていく。今日は荷物が重く感じるし肩が特に痛い。上り道では腕がだるくて力が入らず、杖を持ち上げるのも辛くなって、引きずりながら突いていた。宿に着いてから見てみると、杖の先が斜めに削れていた。

 

ひたすら黙々と歩き、肩が痛いもう限界、と思っていたら自販機コーナー発見。屋根もベンチもある。こんな所があるんだ、天国だーと思った。雨をしのいで荷物を下ろせ、さらに座って熱い缶コーヒーが飲める。かなり復活。雨も弱くなってきた。

 

だんだん民家が増えてきて、ふと家のガラスに映る自分の姿を見たら、リュックに被せてあるビニールの下のところに水がたっぷりと溜まっていた。余計重たいはずだ。周りにはベンチとか台とか何もないし足を止めるのも面倒だし、まぁ次の休憩の時でいいやと思いそのまま歩き続け、郵便局に寄った時に下の所を破って水を抜いた。

 

牟岐警察署の横にある接待所で休んでいると4、5人の年輩の方々がやってきた。今日は雨で誰も来ないと思い帰ったけど、姿が見えたので電話で連絡をとり合い出て来たと。一人遍路が休んでいるだけなのに4人も集まっていただいて恐縮した。熱いお茶とお菓子をいただきました。犬に煎餅をあげるとパクパク食べていた。

ちょうど通りがかった女性も一緒に休む。カリフォルニアから来たルナーさん。「ワタシ、ニホンゴデキマセン」といきなり言われて戸惑ったけど、こちらが片言の英語で会話をする。デカイ荷物を持ち、下ろすとまた担ぐのが大変だからと、荷物を背負ったまま休んでいた彼女。必要最低限も満たしていないような日本語力で、よく四国回れるなぁと感心した。

 

トンネルを抜けると左手に海が見えた。ちょうど民宿の軒下があったので荷物を下ろして休憩。今度は淺川駅前のバス停で休憩。次は飲み物を買った商店の前のベンチで休憩。今日は肩がすぐ痛くなるので、荷物を下ろせる場所があると積極的に休んだ。3時頃、最後に休憩した海南町辺りの接待所で宿に電話をして予約する。

 

そして宿に到着。ここの前で犬にお礼を言って別れる。この犬、僕が休むときは近くでブラブラしたり横になったりしていた。そして歩き出そうと杖の鈴を鳴らすと寄ってくる。目で会話もする。『じゃ、行こうか。』『よし行こう。』ってふうに。

途中トンネルに入る手前で、犬がトンネルの脇道に進み振り返って待っていた。だけど道という感じがしないし草が膝下まで伸びていた。そっちが遍路道で教えてくれたのかもと思ったけど、「こっち行こうよ。」と言ってトンネルに進むとちゃんと戻って来てくれたこともあった。

それに意思を持った目をしていた。きつくなったり、優しくなったり、情の深い目つきになったり。人間のようだった。四国を歩くとお大師さんに会えるという。まさに同行二人だった。

そういえば警備員の人が、「この犬たまに誰かにくっついて歩くんだよ。」と言っていた。戻ってまた誰かと歩くのだろうか。とりあえず休んでください。一日雨で体力も相当消耗しているだろうから。本当にありがとう。

 

今夜の宿は小高い丘の上にある遊遊NASAというホテルと一体になっている温泉施設。国道を挟んで反対側にある喫茶店で道を確認させてもらってから上った。部屋はツインで広く、窓の外にはバルコニー、その向こうは曇っていて良く見えないけど、太平洋がある。料理もおいしかった。コインランドリーで洗濯も出来たし、やっとジーンズも洗えた。のんびりしたかったけど、いろいろ用事をしていたら10時になってしまった。寝るのも惜しい、快適な部屋だった。

 

今日までは誰かと一緒に歩いた。奥村さん、田中さん、野良犬。おかげですんなりと歩き遍路になれたと思う。この数日で、歩くことの不自由さや辛さを経験した。また一人だったら自分の体力や足の痛みから、歩き通すことが出来るのだろうかという不安感を何度も感じたと思う。でも止めたいという気持ちにはならず、なんとか歩くペースがつかめたし、歩き旅への漠然とした強い不安もかなり薄れた気がする。歩けば何とかなるという気持ちになれた。最後まで歩けるようにと、お大師さんが先導してくれたのかも知れない。



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